2012年5月11日金曜日

薬物乱用少年に対応するための教師用ガイドブック【3】知識編



薬物の再犯・再乱用防止を目的として
塚本直樹(Naoki Tsukamoto)

塚本 直樹
著者の塚本直樹氏は中学校教諭であり、
執筆当時は教育大学の大学院で研究活動をしていました。
現職の教諭としての体験から、学校現場で起きる生徒の薬物乱用問題を極めて実際的な視点で捉え、
しかも具体的な対応行動に結びつけているガイドブックです。

知識編

 薬物乱用に関する内容をすべて示すのは難しく、いわゆる「薬物乱用防止教育」をする際の資料として、すでにいろいろな情報を得られる状況でもあります。 したがって、ここでは、「対応編」とのつながりや、特に薬物乱用の問題を抱えた生徒や家族に対応していく際に知っているとよいと思われる情報、意外に知られていなかったり、勘違いされていることの多い事柄について取り上げます。

1、少年における薬物問題の特徴

(1)統計に見る少年の薬物問題
 平成10年度版犯罪白書(表3)を見ると、警察に補導されているのは、年齢として16~19歳の比率が最も高いのがわかります。これだけを見れば、「薬物の問題は、中学校よりむしろ高校での問題ではないか。」と思われるかもしれませんが、その教育程度や非行開始時期,問題行動歴を考え合わせると、そうも言っていられない状況であることがわかります。すなわち、 ①16~19歳といっても、その少年が、高校生であるとは限らないこと、 ②薬物乱用の問題で補導された少年は、すでに中学校時代から非行が始まり、その中で7割以上の者が毒劇物(シンナー等の有機溶剤)の使用経験があるということ、 ③薬物事犯の場合、再び同種の再犯が多いこと、 などを考え合わせれば、なるべく早い時期に、その予防策(薬物乱用防止教育の実施)と対応策(再犯・再乱用を防止するための初期対応)をとる必要があるということです。

 項 目   傾   向
補導時の年齢 覚せい剤の場合 : 最も多いのは19歳 シンナー等の有機溶剤の場合:最も多いのは男子17歳、女子16歳
教育程度 最も多いのが「中学卒業」ついで「高校中退」
動機 好奇心 、憂さ晴らし、いやなことから逃げたくて、誘われてなど
問題行動歴 男女ともに7割以上の者が、タバコ、酒、性経験、毒劇物(シンナー等)を経験
非行開始年齢 男女ともに14歳、ついで15歳
再犯率 他の非行と比べ、薬物事犯の場合、再び同種での再犯率が高い。
また、覚せい剤乱用少年の7割が毒劇物使用経験者であることから、ゲートウエイドラッグとしてのシンナー乱用の実態は依然として強いのですが、最近の傾向として、毒劇物の使用経験なしで覚せい剤乱用に至るケースが増えてきているといいます。

(2)薬物乱用のタイプ
 ①集団型  
   集団での乱用というと、いわゆる「非行グループ」を思い浮かべますが、最近ではそれ以外にも、一見、「普通の遊び仲間」にしか見えないグループが乱用しているケースがあります。集団での乱用の特徴としては、薬物乱用という行為が、その集団への帰属意識を高めるための行事的意味合いや、グループに所属するための通行手形的な要素を持っている場合が多く、単にその薬物が及ぼす陶酔感などの効果を求めているだけではないのです。したがって、使用する時間や場所などは限定的であり、また、仲間が解散すれば、乱用も無くなるということも多いようです。
 ②単独型
  近び仲間などのグループとは関係なしに、ひとりで使用するケースです。当然ながら、集団での使用と異なり、心理的なストレスや、悩み事の解消のために薬物に手を出してしまった場合など、個人の特性が大きく影響します。 単独型で怖いのは、自宅の自分の部屋など、密室での使用が多いことです。1回に使用する薬物の量がわからず、誤って多量の薬物を吸引するなどして急性中毒症状に陥り、自己の生命まで危険にさらすような事態におよぶ例があるのです。
 ③(集団から単独への)移行型
   グループで体験した薬物の効果をひとりの時でも体検したくなって乱用するケースです。「このタイプは、大部分が依存症への道をたどってしまう。」と指摘する専門家がいるように、このような場合、グループでの薬物使用で、すでにその魅力(報酬効果)について体験済みであり、限定された時間や場所での薬物使用では満足できなくなっている状態ですから、もはや単なる「遊び(非行)」の段階から「依存症(疾病)」の段階に達していることが充分に考えられます。


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(3)どのような少年たちが薬物乱用に及ぶのか
 シンナーや覚せい剤が比較的手に入りやすい状況である今日では、以前のように、非行グループに所属する少年が暴走族などとの関わりの中で薬物の乱用に至るといった「方程式」だけでは収まりきれない状況になっています。学校生活の中では、いたって「普通」に見える生徒であっても、何かのきっかけで薬物に手を染めてしまうといった例も多々あるからです。 したがって、「どのような少年たちが薬物乱用に及ぶのか。」という場合、「どのような少年にもその可能性はある。」というのが、最も正確な答えであるといえますが、ここでは、薬物の乱用にいたった少年たちに認められる「傾向」を、これまでの研究報告や関係書物をもとに,以下の項目にまとめました。
 ①心理的な側面から
   思春期・青年期に薬物依存に陥った人たちの傾向として、社会規範にとらわれないグループへの帰属感を求める傾向があります。集団での薬物使用の形態はこれに基づくものと考えられますが、そのグループの中で独立や敵意を表現したり、スリルのある危険なことへの好奇心を満たすといった行動にでるようになります。また一方、1人で殻に閉じこもるような対人回避傾向を示す者もいるといいます。最初から単独で使用する場合などはこのケースと思われます。
   そして、これらの少年たちは、セルフエスティーム(自己をどれだけ価値のある、尊敬される人間であるかを評価するもの)が他の少年たちよりも低いという点も指摘されています。規範意識が薄いのは当然として、目標喪失感や劣等意識を持ち、なかなか自分というものに価値を見出せないでいる実態がうかがえます。また、人と人との付き合いが上手でないと感じていたり、傷つきやすかったり、悩みや不安や恐怖心を抱えている少年も多いようです。
 ②生理的な側面から
   ここで取り上げているような、いわゆる「薬物」ではありませんが、医学的には立派な「依存性薬物」であるアルコールについての研究で、このようなデータがあります。それは、「アルコール依存症の親を持つ子供のほうが、そうでない親の場合より4倍多くアルコール依存症を発生していた」というものです。もっとも、アルコール依存症のない家系からも多くのアルコール依存症が発生していることから、生物学的要因がすべてではないということですが、アルコール以外の依存性薬物についても、基本的には同じ考えが成り立つという見方があります。
 ③社会環境的側面から
  薬物依存症を引き起こす社会環境的な要因は大変多岐にわたる問題ですが、薬物乱用問題への対処という問題だけでなく、予防という観点からも特に注目をされている点であり、非常に大切な側面です。また、これらの多くは、薬物乱用の問題に限らず、多くの非行問題に共通する点であるといえます。
   ア、乱用少年と家族関係
     薬物乱用少年とその家族関係については、非乱用少年との比較研究や臨床の場面でたびたび指摘される点です。中学生を対象としたある調査では、「乱用少年の家族は、葛藤性(家族間の争いなど)が高く、管理性(家族内の規則)や精神的な支援度(どのくらい心の支えになっているか)が低い」という結果を得ています。また、別の調査では、「乱用少年は自己の家庭生活はうまくいっておらず、夕食もほとんど一緒にとっていない」という傾向が強いことが明らかになっています。このように、家族への信頼感の欠如やコミュニケーションの不足など、何らかの問題を抱えていることがわかります。
   イ、乱用少年と友人関係
     薬物乱用に限らず、非行全般において友人関係が及ぼす影響は非常に大きいものです。その影響力は、家族や学校の比ではありません。人間関係が希薄になったとされる一般の傾向からすれば、非行少年たちの友人へのこだわりは特異といってもよいでしよう。しかしながら、コンビニエンス・ストアの前など、いわゆる「溜まり場」に集まり何時間でも会話している彼らは、お互いに内輪の事情や悩み事を話すわけではなく、あれだけ長く一緒にいても信じられないほどお互いについて知らないし、思いやっているわけでもないといいます。これまでの調査研究の中でも、薬物乱用少年は、「校外の友人とのつながりが強い」といった点が指摘されると同時に、非乱用少年と比べて「親しい友人がいない」と答える比率が高いことが示� ��れており、これを裏付けています。
   ウ、乱用少年と学校生活
     男女共に6割程の薬物使用経験者が、「学校生活は楽しくない」あるいは「あまり楽しくない」と答えているという調査結果があります。これは、非経験者の2割弱という結果からすると、やはり多いと思われます。しかし、疎外感を感じるかについては有意な結果は得られておらず、楽しくないからといって、疎外されているとも感じていないようです。 エ、乱用少年と飲酒・喫煙  薬物乱用で補導された者の7割以上が、飲酒・喫煙・性経験・シンナーを経験済みであることは、先に挙げた統計からも明らかですが、特に「飲酒と喫煙」に限っていえば、飲酒・喫煙を経験せずに薬物を使用したケースはわずか0.

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7%であり、ほとんどの薬物乱用者が、薬物より先行して飲酒と喫煙を経験しているという調査結果があります。ある専門家は、「日本という国は、特に未成年者の飲酒に関して寛容度が高く、アルコールが依存性を持つ薬物であるという認識が低い」と述べており、薬物乱用の防止といった観点からすれば、この飲酒・喫煙との関連は注目すべき点であるといえます。 オ、乱用少年と「よく行く場所」  「よく行く場所」と薬物への認識との関連を調べた研究の中で、一般中・高校生の場合、「ゲームセンターによく行く人ほど、薬物に対する関心が高く、摂取願望も強い」傾向があるという結果を得ています。同じように、ディスコ(クラブ)においても、大麻や覚せい剤の摂取願望と強い関連がある点が示されています。また、この研究の中で、少年院在院生を対象としたものでは、実際に「よくディスコ(クラブ)に行った者ほど、薬物の経験率が高い」ということですので、これらの場所が不良交友の場として機能したとき、やはり、薬物乱用の危険も増してくるといえそうです。

2、薬物に関する知識

(1)薬物はなぜやめられないのか(精神依存と身体依存)

表4:乱用薬物と依存性(WHO専門委員会、一部改変)

依存の型  薬 物 精神依存 身体依存 耐性 中枢作用
モルヒネ型 アヘン、ヘロイン、コデイン 強い 強い 強い 抑制
睡眠薬・アルコール型 睡眠薬、抗不安薬、アルコール 強い 強い 強い 抑制
コカイン型 コカイン、クラック 強い なし なし 興奮
大麻型 マリフファナ、ハシッシ 中程度 なし なし 抑制
アンフェタミン型 覚せい剤(シャブ、スピード) 強い なし 少程度 興奮
幻覚剤型 LSD、PCP、メスカリン 中程度 なし 中程度 興奮
有機溶剤型 シンナー、トルエン 中程度 なし なし 抑制

 上の表は、乱用される薬物とその依存性についてまとめたものです。薬物乱用防止用の啓発ビデオなどでは、薬の効力が切れてしまった乱用者が、いわゆる禁断症状(退薬症状)に襲われて、もがき苦しむようなシーンがよく見られます。そのため、シンナーや覚せい剤など、すべての薬物にこのような性質があるのではないかと思われがちですが、実際の場合はだいぶ異なります。このような症状を示すのは、身体依存性をもつ薬物を乱用した時であり、近年、少年たちが乱用する薬物の多くはこのような性質をもたない物のようです。  身体的な苦痛を伴う禁断症状がないことが、かえって、少年たちの警戒感を薄め、乱用を助長しているといえます。したがって、禁断症状を示さないのに「やめようと思ってもや� �られなくなる」のは、その薬物に心理的な依存を作り出す作用があるからということになります。このような依存の形想を精神依存といいます。

 精神依存の状態になると、薬の効力が切れてしばらくして、いらいらして落ち着かなくなったり、怒りっぽく凶暴になったりして、薬を使わないではいられない状態になり、再び使用する(強迫的使用)ことになります。もし手元に薬がない場合は、それを何としてでも手に入れようとする(探索行動)のも特徴です。また、耐性を生じる薬物にいたっては、薬物を使用するにつれ、初回の量では同じような効果が得られなくなり、結果として使用回数や使用量が増し、ますます深刻な依存症に陥ることになります。このような状態になると、「やめられない」のは、薬物依存症という病気の� ��状ですから、本人の意志が強いとか弱いとかの問題ではなくなります。

 専門の医師による、病状に見合った治療プログラムの実行が必要です。表に示したように、依存性の薬物といった点では、アルコール(酒)もニコチン(たはこ)もまったく同じであるといえます。ですから、飲酒や喫煙の習慣をやめることができないことと基本的には同じであるといえるのです。しかし、アルコールが何年もの継続的な飲酒の末,依存症になるのに比べ、乱用される薬物に関しては、ほんの3か月程度の乱用で依存症の状態になるといわれます。薬物乱用に対する初期対応が重要なのもこのためです。

(2)薬物乱用の症状と気づき方
 先に示した表のように、薬物の及ぼす中枢作用はそれぞれですので、それらが示す症状も同じわけではありません。ここでは、中高校生に多くみられる有機溶剤と覚せい剤を例にとり、その症状の特徴と、周りの者が気つくには、どのような点に注目したらよいかを示すことにします。


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①有機溶剤の場合
 ア、症状の特徴
 シンナー等の有機溶剤が及ほす主な急性効果は、酩酊・麻酔作用と幻覚作用です。「自分は何でもできる」と感じるような万能感や多幸感、気分の高揚などに代表されるような情動の変化,および、視覚領域を中心に、錯覚、幻覚、夢想体験にいたるまでの様々な知覚異常など、多彩な体験を生じます。その後、無気力、無関心、脱力感が起こります。そしてこの一連の状態が、比較的短時間に消えていくのが特徴です。

 イ、気づくための留意点
 薬が効いている状態においては、目つきがうつろであったり、ろれつが回らない等の様子が見て取れますが、独特の強いシンナー臭がすることで使用に気づく場合が多いようです。
②覚せい剤の場合

 ア、症状の特徴
 疲労感・倦怠感・眠気が取れ、爽快な気分を感じ、自信に満ちて決断が早くなります。しかし、客観的には、落ち着きがなく多弁、多動でときには立腹しやすいように映ります。また、のどが渇きやすく、むやみに水分を取ったりします。そして、このような急性効果が消失すると、逆に、抑うつ感、倦怠感、脱力感が現れ、何をするにもおっくうになり、漠然とした不安感が生じます。そして、これらの不快な気分から逃れるため、あるいは、快適な効果を体験するために、覚せい剤を繰り返して使用することになります。
 この繰り返しの使用によって(一般には2か月から1年の使用期間の後)、幻覚や妄想などの精神病症状が現れるようになります。薬物の使用を中止することで、これらの症状は改善されますが、いったん精神病症状を体験してしまうと、薬物の使用がない状熊においても、心理的なストレスや飲酒などを契機に薬物使用時と似た症状が再燃します。これをフラッシュバック現象と呼んでいます。また、このような人では、覚せい剤を少量再使用しただけでも重い症状が急激に再然(逆耐性による現象)したりもします。

 イ、気づくための留意点
覚せい剤の場合、有機溶剤使用時のように、夢見心地になるのではなく、意志の疎通も保たれており、対人関係の様子からは判新できません。しかし、精神病症状が現れる前に、特徴的な行動形態を現すことがありますので、それについて、以下に列を示します。

●同じ行動を続ける   常同行動といって、単調な行動を延々と、飽きずに操り返すという行動をとります。異様なほど長時間ゲームに熱中したり、電気器具の分解と組み立てを飽きることなく、くり返したり、ニキビつぶしに没頭し続けるなど、その行動も様々です。

●活発と怠惰のくり返し   覚せい剤の使用形態として、周期的な使用が挙げられます。これを、「覚せい剤の周期的使用でみられる三相構造」と呼びます。  第1相は、「めちゃ打ちの時期」と呼ばれ、2~3日の間、1日に数回ずつ覚せい剤を使用し、その間は睡眠や食事もほとんど取らず、水分だけはやたらと欲しがります。 第2相は、「つぶれの時期」と呼ばれ、第1相の反動で、ぐったりして眠り続けるような状態が、やはり2~3日間続きます。  第3相は、「薬物渇望期」と呼ばれ、元気を回復して、食欲も旺盛になって活発に動きますが、やがて、また覚せい剤が欲しくなり、そのことによるいらいらや焦燥感を示して、何としてでも覚せい剤を手に入れたいと思う「薬物探索行動」に走るようになります。この期間は数日間といわれます。以上のような3つの様相をくり返すことで、やがて依存症という精神病症状に至ります。友人と一緒に遊びに行ったまま数日間帰らない、帰ってきたと思ったら、2~3日ぼんやりと過ごし続ける、急に元気になってまた出かける、など、活発な行動と怠惰な行動が繰り返されるのが特徴です。

●やせる   特に女子少年の場合、ダイエット目的に薬に手を出す例があるように、覚せい剤の持つ食欲抑制の作用によって、短期間のうちに急激な体重の減少が起こります。実際のやせ方には個人差があり、ほとんど症状が現れない場合もありますが、そのやせ方はいかにも病的であるといいます。また、薬物に対する「耐性」が形成させることにより、最初の使用量では効き目がなくなって、徐々に1回の使用量が増していくことになります。

●落ち着きがない   覚せい剤を使用し、薬が効いているときは興奮状態にありますから、せかせかと動き回ったり、おしゃべりになったりと、落ち着きのない言動が目立ちます。また、やたらに電話をかけたり、妄想や幻聴からくる独り言が多かったりするのも特数であるようです。しかし、� �の効き目が無くなると、ぐったりと無気力になり、やがていらいらして怒りっぽくなります。

●お金をほしがる   先に挙げた「第3相」の状況では、再び覚せい剤が欲しくなって薬物探索行動が見られるようになります。そして、その薬を得るためのお金が必要となって、親に対してお金を要求したり、無断で家のお金を持ち出したり、あるいは、恐喝という手段で薬物の購入代金を得ようとします。

●家族に関心を示さない   薬物乱用少年と、いわゆる不良交友の仲間たちとのつながりが非常に強いことは先に述べましたが(知識編3.1.(3),③ーイ)、特に乱用が進み、依存症と呼ぶ段階まで達している場合は、そのつきあいも「薬物を乱用する仲間」に限定されてくるようです。そのような少年にとっては、家族関係そのものが煩わしいものになり、まったく関心を示さなくなります。


●遅刻・不登校   生徒である薬物乱用少年が、学校で対処が可能な初期段階であるかどうかのひとつの判断指標として、「基本的な生活リズムが保てているかどうか」という点がありますが、初期の段階を通りこして依存症の段階に入ると生活のすべてが薬物中心になりますので、当然、朝起きて、学校に通うといった基本的な生活のリズムは保てなくなります。
 そして、完全に学校に来なくなるか、好きな時間に登校して勝手に帰っていくような学校生活を送るようになるのです。成人の乱用者に定職のない例が多いのもこのためです。

(3)最初から「快感」だとは限らない
 初めて薬物を使用したときに、その薬物の及ほす効果が本人にとって好ましいものであれば,当然のようにその薬物を繰り返して摂取したいという欲求が生じます。有機溶剤や覚せい剤の使用によって及ぼされる効果は、先にあげた項目(3.2.(2))で述べたとおりであり、このような精神体験ができたことに「はまってしまう」か,依存形成ができてしまったあとでは、薬の効果が切れたことによる不快な気分から逃れるために繰り返し薬物を使用していくことで、「やめたくてもやめられない」依存症の状況に陥るわけです。 しかしながら、乱用者は最初から「快感」を得ているかというと、そうでもないようです。覚せい剤やシンナーの初回体験では、あまりいい気分を感じなかったり、気分が悪くなって嘔吐したりといった経� ��をする者が少なからずいるということが報告されていますし、かなり依存が進んでいる人でも、特別な快感を得たことがないと答える例があるようです。また、アメリカで行われたある実険においても、アヘン類やコカインは初回体験で強く好まれたのに対し、抗精神病薬,紙巻きタバコ、有機溶剤はあまり好まれていなかったという結果が出ています。
 それでは、初回体験が不快であるにもかかわらず、その後の反復使用が起こるのはなせでしょうか。そこには、青少年期特有の「仲間どうしの連帯感の確認行動」としての位置付けや、「ダイエット」のための摂取行動、「反社会的行動」をすることへのスリルといった、環境的・心理的な側面から薬物を摂取しようとする姿が見て取れます。そして、乱用を繰り返す過程で、徐々に「快感(報酬効果)」が強まっていき、同時に「不快感(罰効果)」が弱くなってやめられなくなるのです。

(4)覚せい剤はいくらで買えるか
 第3次覚せい剤乱用期といわれる最近の薬物問題の特級として、「低年齢化」という点が指摘されますが、この低年齢化を招く一因として「買いやすくなった価格」の問題を挙げることができます。覚せい剤の末端価格は、この10年でおよそ10分の1にまで下がっているといいます。最近では、1グラムあたり2万円ほどが平均であるといわれており、密売人は、これを小さな袋に分け、1袋1万円程度で少年たちに売りさばくといいます。1万円というと、最近の中・高校生が持っていてもおかしくない金額ですし、この量で、20回程度使用することができるといいますから、彼らの感覚からすれば「高くない」のかもしれません。

(5)家族が薬物乱用をさらに助長する(イネイブラ一と共依存)
 イネイブラー(enabler)とは、「世話焼き行動をする人」と訳されます。薬物依存者が活発に乱用をくり返しているような場合、システムとしての家族のみならず、個々の家族メンバーも、薬物依存者の乱用行動を維持するように機能していると考えられています。例えば、表面的に家族は、薬物依存者の行動を監視し、脅したり、薬物を隠したり、取り上げたり、時には暴力を用いながらも、何とか薬物使用を阻止しようと試みるのが通常ですが、同時に、薬物依存者が起こした問題について、献身的なまでにその処理を請け負います。このように、薬物乱用を阻止する行動と、本人をかばうような矛盾する行動を同時に行うことをイネイブリング(世話焼き行動)といい、この行動が、薬物依存の症状をさらに進行させてしまうと� ��われます。そして、イネイブラーには、親、特に母親が多いというのも特徴です。 家族(特に母親)は、自分の子供など、依存者のケアに徹すれば徹するほど、その症状が悪化していく状況に直面し、やり場のない怒り、抑うつ感、空虚感、自責感に支配される一方、「私がいなければこの子は生きていけない」という思い込みから、薬物依存者との密着をさらに強めていくのです。 そうした思い込みから、時には暴力を受けながらも離れようとせず、強迫的にケアを与え続ける人々は、「共依存(co・dependency)」と呼ばれ、これらの人々は薬物依存者に巻き込まれ続け、「自己を犠牲にすることによるパワー」をもってケアし続けた結果、薬物依存者以外の対人関係でも不健康な状態に陥ることになるのです。

(6)法的な手続きはどう進むか
 少年に関わる法的な処分が、成人の場合と異なるのは、よく知られていることだと思います。これは、少年への法的な手続きが、少年の健全な育成をはかることを目的とし、未成熱で可塑性に富む少年の特質に鑑み、刑罰よりも教育的、社会福祉的措置を優先させようとの趣旨によって定められているからです。

 少年(特に中学生までの年齢期)が、薬物乱用などの非行によって、警察に補導・逮捕された場合、このような趣旨に則って、以下のような流れで手続きが進みます。まず、未成年者の場合、検察官は必ず家庭裁判所(以下家裁)に送致しなければなりません。家裁に送致されると、家裁では、本人に関する調査を行います。そして、必要に応じ、少年鑑別所に送致します(「監護措置」、最長4週間)。


 この少年鑑別所は、最終的な処分を下すところではなく、本人にとってどのような処分が適当であるかを判断するための調査(知能検査,家庭環境調査など)を行う機関です。調査の結果、非行事実があれば「審判」の開始となりますし、非行事実が認められない場合は、審判は開始されず、事件は終了します。家裁における最終的な処分は「保護処分」で、その処分には、「保護観察」、「児童自立支援施設および児童養護施設」への送致、「少年院」への送致の3種類があります。

 保護観察は、少年を施設に収容せず、家庭や学校においたまま、保護観察官と保護司の指導監督・指導援助によって本人の改善、更正をはかるものです。原則として、その期間は20歳に達するまでですが、 期間中であっても保護観察の必要がないと判新されれば、停止、解除されます。 少年院には、初等・中等・特別・医療の4種があり、そのいずれかに収容されます。仮退院が許可されれば、出所後、保護観察になります。

<相談機関・窓口および情報源>  掲載を省略
<主な引用・参考文献(敬称略,アルファベット順>  掲載を省略



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