2012年6月3日日曜日

精神病とその診断について|カウンセリングのハートコンシェルジュ 東京を中心にカウンセリングによる心の相談展開中


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精神病とは、妄想や幻覚・幻聴等を伴い、現実との接点を失う、精神的な病です。 そして、類似した症状を持つ他の疾患との区別は、慎重にしなければなりません。

今回は、専門用語がたくさん出てきますが、しばしご辛抱を。

精神疾患には、大きく分けて3つのレベルがあります。
軽度なものから神経症レベル、人格障害レベル、精神病レベルとなります。この違いは、おおまかに言えば、観察自我があるかないかによります。

観察自我とは、自分を客観的に見つめるこころの事です。

例えば、神経症レベルである潔癖症の人は、自分が過度に手を洗う事に気づいていますし、抑うつ状態の人は、自分が落ち込んでいる事を知っています。観察自我がしっかりと機能している事から、心理学者の中には、神経症レベルの事を「健康なレベル」と呼ぶ人もいます。

人格障害レベルになると、この観察自我が、だいぶあやしくなってきます。

例えば、人格障害のひとつである自己愛人格障害では、自分を賞賛しない人の存在が想像つかないのです。自分は、常に注目を浴びるべき存在である事を疑わな� ��のですが、その内面は空虚であり、しかし、その空虚さに気がつかないのです。

精神病レベルになると、さらに観察自我が働かなくなります。彼らは、もはや現実の世界との接点を失い、幻覚や妄想の中で生きるようになります。

心理学の黎明期、フロイトの時代には、セラピーにより治療が可能なのは、神経症レベルに限ると考えられていました。

しかし、近年では、コフートが自己愛性人格障害の治療に、カーンバーグが境界例の治療に成功して以来、人格障害レベルの治療も可能になりました。


口臭と過食症

また、精神病レベルの病理については、イギリスのレイン(文献1)やアメリカのペリーによる成功例(文献2)を経て、現在では、精神科医・ソーシャルワーカー・セラピストの共同作業による統合的なアプローチ(バイオ・サイコ・ソーシャル・アプローチ)によって、その治療効果は大幅に向上しています。

精神病の治療において、まず重要な事は、診断です。

精神病に間違いやすい精神疾患(例えば、気分障害等)があり、その場合、処方する薬品も違ってきます。また、精神病は慢性的なものだけではなく、適切なアプローチをすれば、短期間に幻覚・妄想等の精神病的症状が無くなる短期精神病性障害、統合失調症様障害などもあります。

さらには、� ��過性の精神病的症状の中には、スピリチュアル・エマージェンシー(エマージェンス)と呼ばれる症状があり、これは人間のスピリチュアルな成長の一過程なのだと主張する人たちもいます。

精神病の主な種類をあげると(文献3、4):

1.統合失調症

一般的に、25歳以下で発症し、病前の機能レベルには回復が困難な慢性的な精神疾患。通常、明らかな幻覚と奇異な妄想が認められ、その症状は6ヶ月以上持続します。

2.妄想性障害
 
慢性的な精神疾患とされています。妄想は少なくとも1ヶ月以上継続し、その妄想は奇異なものではなく、恋人や配偶者に裏切られる、追跡される、病気等、実際に起こり得る状況に関するものです。幻覚は、もし存在するとしても顕著なものではありません。
躁または鬱の症状のある場合、それらの気分障害的なエピソードの継続期間は、妄想の継続期間よりも短期間となります。

3.短期精神病性障害


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1日以上1ヶ月未満、以下の症状のうち少なくともひとつが存在する:
妄想、幻覚、解体した会話、ひどく解体したまたは緊張病性の行動。
短期精神病性障害の患者は、病前の正常な状態にもどります。

4.統合失調症様障害
 
1ヶ月以上6ヶ月未満、妄想、幻覚、あるいはその他の統合失調症の活動期の症状を示します。
また、躁または、鬱の症状のある場合、それらの気分障害的なエピソードの継続期間は、精神病的症状の継続期間よりも短期間となります。社会的、職業的機能障害が認められない場合もあります。

5.失調感情障害

患者が活動期の統合失調症の特徴的な症状を示し、かつ躁または鬱の症状のある場合、それらの気分障害的なエピソードの継続期間は、精神病的症状の継続期間よりも短くない場合に診断されます。
顕著な気分障害の症状がない期間(少なくとも2週間)でも、妄想または幻覚といった症状があります。

このように、精神病にはさまざまな種類があり、「幻覚・妄想」=「統合失調症」ではありません。そして、精神疾患の種類によって期待されるトリートメントゴールも治療期間も異なってきます。

例えば統合失調症の場合、慢性的な精神疾患であり、長期間のトリートメントが必要となりますが、短期精神病性障害や統合失調症様障害の場合は、その症状は慢性的なものではなく、そのトリートメントゴールは比較的短期間のうちに「完全に病前の機能レベルに回復する」という事になります(文献5)。

さらに、精神病的なエピソードがありながら、うつ等の気分障害的エピソードの認められる失調感情障害につ� �ては、統合失調症と同様、慢性的な精神疾患の要素があるのですが(文献5)、類似する他の精神疾患があるため、その診断は慎重になされねばなりません。


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例えば、失調感情障害と精神病性気分障害は非常に区別がつきにくいのですが、後者は、基本的に気分障害(躁状態や鬱状態が
認められる)であり、気分障害的なエピソードが解決していくに従って、幻覚や妄想等の精神病的症状は消えていきます。

失調感情障害と精神病性気分障害の識別(文献3、4、5)は:

気分障害の場合、顕著な気分障害的症状(躁状態や鬱状態)を伴わずに精神病的症状を示す事はありません。

識別基準は、精神病的症状と気分障害的症状がオーバーラップしているか否かとなります。少なくとも2週間、気分障害的症状とオーバーラップせずに幻覚・妄想等の精神病的症状が存在する場合は、失調感情障害となります。

そうでない場合は精神病性気分障害と考えられ、この場合、気分障害から回復するに従って、妄想や幻覚などの精神病的症状がなくなっていきます。

この他、薬物の乱用により、幻覚・妄想 をはじめとする精神病的な症状が認められる事がありますし、近年トランスパーソナル心理学の人たちが主張しているスピリチュアル・エマージェンシー/エマージェンス(SE)においても、精神病的エピソードが認められます(文献6)。
そして、彼らによれば、SEは、さらなる精神的成長の前段階となるプロセスだと言います(文献7)。

繰り返しになりますが、精神病レベルの病理にはさまざまな種類があり、幻覚や妄想があるからといって、統合失調症とは限らないし、精神病でなくても幻覚や妄想が認められる場合があります。そして、トリートメントのプロセスやゴールや処方する薬も、その症状によって異なるので、その特定にあたっては十分な注意が必要です。


文献1:レイン、R.D.,「ひきさかれた自己」、みすず書房、1971年
文献2:ペリー、J.W.,個人意識:精神の役割と社会的危機、「宇宙意識への接近」、春秋社、1986年
文献3:「DSM−W:精神疾患の分類と診断の手引」、医学書院、1995年
文献4:Zimmerman, M.(1994), Interview Guide for Evaluating DSM-W Psychiatric Disorders and the Mental Status Examination, Psych Products, East Greenwich, RI, USA.
文献5:Maxmen, J. S., Ward, N. G.(1995), Essential Psychopathology and Its Treatment, W.W. Norton: NY, USA.
文献6:Lukoff, D. (1985). The Diagnosis of Mystical Experiences with Psychotic Feature. The Journal of Transpersonal Psychology, Vol. 17 No.2, 1985, 155-181
文献7:「スピリチュアル・エマージェンシー」、S.グロフ、C.グロフ編、春秋社、1999年

(向後善之)



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